雨の日と月曜日

2004年10月4日 音楽
デビュー・アルバム『Pablo Honey』の――より正確には、シングル「Creep」の――大成功により、一躍名を知られるようになったレディオヘッドだが、その後は単なる一発屋に終わるだろうとの見方が大勢を占めていた。それだけに、彼らが『The Bends』のような素晴らしい、堂々たるアルバムを引っさげて戻ってくるとは誰も予想していなかったに違いない。『Pablo Honey』が悪いアルバムというわけではない。だが、『The Bends』の雄大さと比較すれば、オックスフォードに拠点を置くこの5人の若者がデビュー以降に急速な成長を遂げたことは明らかだ。「High And Dry」、「Just」、「Street Spirit」、「Fake Plastic Trees」…ポップな曲はひとつもない。にもかかわらず、レディオヘッドの偉大さの成せるわざだろうが、いずれもシングル化されヒットした。聴けばそうなったのもうなずける。アコースティック&エレクトリック・ギターの壁を越えて迫ってくるトム・ヨークのファルセットを駆使した叫び、それに歌詞と音楽の一体化が、メランコリックな美しさをたたえた傑作を生み出したのだ。『The Bends』は1990年代のもっとも重要なアルバムのひとつであり、この後さらに偉大な作品が登場することを華々しく予告していたのである。(Robert Burrow, Amazon.co.uk)


部屋に母親が来る夢を見た。二人とも、部屋の中で座らず、立っていた。明るい光景に雨が徐々に侵食してきて午後4時、ぼやけた雨音が輪郭を取り戻すのと同じ速さで、ゆっくりと目が覚めた。

遠くで、堅く濡れた道路の上を車が走る音。
タイヤが水を撥ねて、アスファルトを暗く濡らす音。

雨の音は、音がないよりも静かに響いて聞こえた。
自分が何時ごろ眠ったのかわからなかったが、本当にぐっすり眠ったんだなぁ、と思った。

友達にお金を返す約束をしていた。今月はまだ確認していなかったので、母親に電話をし、仕送りの入金をしてくれたか訊いた。

「あのさ、今月お金入れてくれた?」
「いや、まだだけど。」
「じゃ、入れといてよ。よろしく、じゃ。」
「どうしたの?」
「え?何が?いや、お金なくなったからさ。」
「うん...わかったよ。明日入れとく」

彼女がなぜ「どうしたの?」と言ったのか、わからなかった。
”お金が必要だから、入金してくれと頼むに決まってる”と思った。

メールで友達に、明日お金を返すことを伝えた。

昨日の夜、1次会の後にローソンに傘を忘れた。
ゼミの先生にもらった傘で、忘れたことに気づいた時には酔っていたので「まぁ、いいや」ぐらいにしか思わなかったのだけれど、やはりずっと気にかかっていた。
昨日から雨は続いているし、きっと盗まれただろうなぁと思ったけれど、”もしかしたらあるかもしれない。”と考えて、結局取りにくことにした。おなかが減っていたので、お米を研いで、炊飯器のスイッチを入れて、家を出た。

外は暗かった。
ローソンまで、片道30分ほどの道のりを、『The Bends』を聴きながら歩いた。

雨は強くも弱くもない勢いで降っていて、歩きながら色々なことを考えた。
傘のこと、勉強のこと、好きな子のこと。明日のライブのこと、昨日の飲み会のこと。まともなこと、まともじゃないこと。
時間は感じなかった。途中で少し、寒くなったなぁと思った。

ローソンに着いた、傘立てを見たが見当たらなかった。
青い看板と傘に気持ちを引きずられながら、来た道を引き返す。

グラウンドから洩れた光や街灯の光を反射した歩道は、海獣の背中みたいだった。
海獣の背中は、泥のついた落ち葉を貼り付けて、窪みに溜まった水をてらてら光らせていた。

途中、つま先に目が行く自分に気づいて、顔を上げることにした。

いろいろな人とすれ違い、いろいろな車とすれ違った。
夜みたいに暗い風景、ヘッドライトは眩しかった。
目が光る大きな甲虫みたいな車が、視界の端を流れ、通り過ぎていく。

家の近く、ガソリンスタンドのある交差点の手前で、曲が切れた。
ウォークマンの再生ボタンを押した。
交通事故でも起きたのだろうか。横断歩道では、救急車と何台かの車が立ち往生していた。オバサンや、制服を着たおじさんの間を通り過ぎる。

トムヨークが言うみたいに、全ての人々が壊れていて、全てのものが壊れているのなら、今よりは少しマシな気分になれるかもしれない。
もしそうなら、壊れているのは俺だけじゃないんだから。

家に着くと、ごはんの炊けた後のにおいがした。
ウォークマンを止める気にはなれなかった。
ご飯を食べながら、携帯電話をチェックした。

明日、mogwaiを観にいく先輩からメールが着てた。
先輩からのメールには、「明日mogwaiだねえ。あはは、死んでやる。爆音死。」と書いてあって、俺は「明日ですねえ、俺も死んでやる。」と返した。

メールを返信する時に、頼まれていたダニーハザウェイのアルバムをデータ形式か、音楽CDにするか訊いた。
そしたら、「あ、やっぱMSNで転送してくれ」という文章とアドレスが送られてきた、意味がわからなくて「mp3ってメールで送れるんですか?」と返信すると、電話がかかってきた。

ウォークマンのイヤホンをはずし、メッセンジャーがどうのこうのと少し話したあと先輩に、「おい、お前、声死にそうだぞ。どうしたんだ?就職決まってないからか?(笑)」と言われた。全く自覚してなかったので、あせった。

「うわ、やべっ。マジすか?全然気づいてませんでした」
「うん。まぁ明日、mogwaiで死になさい。」

とかそんな感じで電話は終わり、仕事中だった先輩は仕事に戻り、食事中だった俺はイヤホンを着け、納豆ごはんに戻った。
たしかに最低な気分だった。
だけど、それを出さないように明るく普通に応対してるつもりだった。

なぜかはわからないが、納豆ご飯を食べ終える間に、泣きそうになっていた。
泣くのを我慢していると、母親との会話が頭をかすめた。

”もしかして母さんの「どうしたの?」って、先輩の「どうしたんだ?」のと、同じ意味だったのかよ。。。”と思ったとき、目から涙がこぼれた。

2週目の『The Bends』、イヤホンからは"Fake Plastic Trees"が流れてた。

制御を越えて、内部で膨らみ始めた波は、色々な思いと考えを巻き込んで、しだいに嗚咽を催させるほどに大きくなった。
涙は白いティッシュやパーカーの袖口に吸い込まれていった。

ベッド送り。

11時ごろ、目が覚めた。
2週目の『The Bend』はもう終わっていた。

くしゃくしゃに丸められ、机の上に転がっているティッシュが見えて、すごく嫌になった。

かっこ悪ぃ、、と思った。

オマエは悲劇のヒロインかよ。

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